企業法務memoブログ

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『アジャイル開発の法務』memo

開発委託に関する法的課題の理解を整理し直す過程で、『アジャイル開発の法務』を読みました。

 

 

ウェブ・アプリ等の開発工数の確保という企業側の要請と、フリーランス・副業などより柔軟な働き方を求める開発者が増えているという傾向もあって、開発を完全に自社従業員だけで行うとという会社は今はもうかなり少ないのではないでしょうか。

工数がなければ作りたいものを作れないわけで、企業が工数の確保のために開発を業務委託するというのは当然のことと思いますが、「偽装請負」「下請法」などを遵守するルール作りに頭を抱える法務担当も多いことと思います。

本書はアジャイル開発に主眼を置いているものの、開発を外部委託すること全般をカバーしているので、「アジャイル開発」と聞いてピンと来ない(自社には関係ないと思っている)法務担当にもオススメです。

 

以下、雑感。

  • アジャイル開発の外部委託と聞くと、法務担当としては「できれば止めさせたい」と思ってしまいます。開発過程で状況に応じて成果物、作業内容が変わっていく開発手法は、契約締結時に業務内容等の確定ができず、契約で債務(裏返すと債務不履行)を明示するのが非常に困難であるのが理由だと思います。実際、事業サイドからは「やること決まってないからアジャイルで」というようなオーダーが来たりして、「やること決まってないのに何でお金支払う契約を巻こうとしてるんだろう・・」と思ってしまいます(実際には一定は決まっていて、契約書の作り手への情報提供をサボっているだけであることも多いのですが)。
  • ただ本書は、対比される「ウォーターフォール開発」のデメリットも挙げつつ、フラットな視点でアジャイル開発の必要性を説明しているので、アジャイル開発への法務のアレルギー反応を緩和する作用があると思います。
  • 悩ましいのは「偽装請負」「下請法」の観点だと思います。
    偽装請負に関しては、「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第3集)」を引用しつつ解説してくれている点が有用です。疑義応答集だけ読んでもスッキリしない箇所がある程度明確になります。
    下請法に関しては、結局はできる限り具体に業務内容などを規定した書面で発注し、変化に応じて都度更新するという基本を貫くしかないという印象を受けました。

 

現場を理解しつつ、かつ現場の理解を得ながらルールを決めていかなければならない「アジャイル開発」は、リスクコントロールが非常に難しいですが、一方で過剰な制約で開発工数不足・遅延を招くわけにはいかないこと、昨今アジャイル開発なしに現場を回すのは現実には難しいことから、何か足がかりになる知識を得たい法務担当は多いはずです。
本書はそういった要望に応える一冊なのではと思います。